長いようで短い春休みも半ばが過ぎ去ってしまった今日(こんにち)。
寮の部屋に一人居ても暇でつまらないし、もしかしたら会えるかもと思い特力の教室へと来ると其処には期待通りの人物が居た。
大きな机にノートやプリントを広げて課題に打ち込んでいる。
教室を見渡すと彼女以外は他に誰も居ない。もちろん"先生"も、居ない。
これはラッキーだ、と小さく笑みを浮かべる内心でほくそ笑み、集中していた彼女に声を掛けて前の席に着く。
少し会話を交わすと彼女は再び課題の続きを始め、暇になった自分はその辺にあった雑誌を手に取った。
雑誌をもうすぐで読み終わるかという頃、課題が終わったのか一段落ついたのか、シャーペンを置く音と大きく息を吐く音が聞こえてきた。
「ねえ、ナル、」
「んー?」
呼び掛けられたが、雑誌が丁度良いところなので目を離さずに生返事をする。
なんだか彼女が此方を見ている視線を頬に感じてるのだが。
「私、あんたのこと好きになったみたい」
「・・・・・は、」
前後脈絡の何もなく不意に発せられたその言葉。
聞き間違いだろうか。
だって、好きってあの好き?
訳が分からないと雑誌から顔を上げれば、此方を見ていた綺麗な茶色の瞳と目が合った。
「だから、付き合おっか」
恥ずかしがる素振りも照れる様子も何処にも見えない。
表情ひとつ変えないで、ただ此方を真っ直ぐに見つめてくる。
本気で言っているのか、何か企んでいるのか。
本気だとしたら急にどうしてこんな。
ずっと先生を一途に慕っていたのに。
いや、先生を諦めて自身に振り向いてくれたというのなら嬉しいことこの上ないが。
でもそんな事が起こりえるはずがない。
いやいやいや・・・・・・
「なーんてね、」
色々なことを想定して考えを巡らせていると、笑いを含んだ声が響いた。
「エイプリルフールの冗談よ、バカナル」
してやったりという悪戯な笑みを浮かべると、荷物を纏めて教室を出ていった。
そういえば今日は四月一日。
嘘をついても許される、エイプリルフール。
すっかりそんなこと忘れていた。
「・・・嫌いだよ、柚香先輩なんて」
椅子の背もたれに盛大に寄りかかり、額に手をやって天井を仰ぎ見た。
ため息に混じって呟いたその言葉も、エイプリルフールの嘘。