雑誌で最近よく取り上げられている、縁結び効果が絶大だという神社。
所在は森の中のはたまた森の中にあるそうで、辿り着く前に諦めるカップルも多いとか。
流行りなものが好きな自身はそれを見てすぐに"行きたい!"と彼の部屋を訪ねた。
そして休日の今日、山奥に行くなんて気乗りしていない彼だったが、しぶしぶ付き合ってくれることになった。しかし。
「もう無理やっ!」
叫ぶように大きな声で誰に言うでもなくそう言うと、へたんと地面にしゃがみ込んだ。
足が鉛のように重くてなかなか動かせないし、痛くて動かしたくもない。
普段はそれほど重量を感じないバックまで重くなってきて、何処かに放り出してしまいたい。
「そんな靴履いてくるからだろ」
「だって・・・・・」
自業自得、と前を行っていた棗に悪態をつかれた。
彼が言っているのは、自身が履いているヒールがけっこうな高さのあるブーツ。
そうは言われても、いくらら山でのデートといったってお洒落はしたいし、冷たい風が肌を刺す心地の今日なんかは丁度良い。
それでも、彼が言っていることはもっともなので言い返す事は出来ず、不満そうに口を噤んだ。
「・・・ったく、」
彼の溜息が聞こえたかと思うと、自身の横に置いたはずのバックが持ち上げられた。
それと同時に強く腕を引っ張られ、無理矢理に立たされる。
困惑している此方の様子を気にする素振りなく、指と指とを絡めて手を繋ぐとそのまま歩き出した。
「なっ、なつめ?」
「しかたねーから手、引いてやるよ」
舌を出して悪戯そうに笑った彼に、先程までの疲れが嘘のようなとびきりの笑顔を向けた。
***
「あっ!」
歩く事に懸命になっていた彼女がふいに大きな声をあげた。
「見てっ、なつめ!あれっ!」
興奮した子供のようにはしゃぎ出した彼女が指差す方向を見ると、そこにあったのは滑り台。
だが、ただの滑り台ではなくとてつもなく長い。
それは終わりが何処にあるのか見えないほどに。
いったい、どんな暇人がなんでこんな森の奥に訳の分からない物を作ったのか疑問だ。
「おもしろそーやなっ、楽しそうやな・・・!」
眩しい。
彼女のキラキラと輝く無垢な瞳というか、取り巻くオーラが。
輝きすぎていて正面から見るに見られず、目を細めた。
「・・・滑りたいなら滑れば」
その科白によりいっそうキラキラを増やすと、まるで犬がするような全力疾走で乗り場へ向かった。
繋がれている手はそのままだったので、自然と自身もその場に連れられる。
自分はこの場で待っているつもりだったのに。
「棗も!一緒に滑ろうなっ」
不平を言おうとした途端、満面笑顔な彼女が此方を振り向いた。
その顔があまりにも楽しそうで嬉しそうだったから、喉元まで出かかった制止の言葉を飲み込む。
勢い良く滑り込んで行った彼女を生暖かい目で見送ると、仕方なしに後へ続いた。
冷たく爽やかな風が頬に当たり過ぎ去っていく。
こんなものの何処が楽しいんだ、と思い顔を顰め不満を募らせていると、前方に彼女の姿を捉えた。
滑るにつれどんどん彼女に追いつき、だんだんと姿が大きくなってくる。
ついには、手を伸ばせば届くほど傍まで近づいてきた。
「蜜柑」
「ひゃあっ!」
名前を呼ぶと同時に手を伸ばして抱きしめた。
突然の事に驚き、彼女は間抜な声をあげ首だけで此方に振り返る。
「もーっ吃驚したやろ!」
ぷくっと頬を膨らませて怒り、見上げてくる彼女が可愛いのだが可笑しくて。
声を漏らして笑うとそれにつられて彼女も笑みを零した。