学園主催のクリスマスパーティーが今年も滞りなく行われている。
原則として病気などではない限り欠席することが出来ないので、面倒と思いつつもかればかりは参加しないといけない。
それに、この日を楽しみにしている蜜柑を目の前にしたら何も言えなくなってしまった。
「なーつめ!」
隅の壁に寄っ掛かって浮かれている輩や場内をぼうと眺めていたら、溌剌とした声と共に視界のど真ん中に彼女が入ってきた。
よくもまあこんな所に居る人間を見つけたものだ、と感心しつついつもと雰囲気の違う彼女を眺めた。
髪をいつもと違いアップに上げていて顔がより明るく見え、サンタ服をモチーフとしたドレスも彼女の白い肌に朱が良く映えていた。
"似合ってる"とか"可愛い"なんていう褒め言葉を言ってやるつもりは全く無いが。
「こんな所に居らへんで、一緒に踊らへん?」
「・・・・ルカや翼と踊ればいいだろ」
楽しそうに笑いながら此方へ差し伸べられた手を一目見ただけで掴むことはしなかった。
すると行き場の無くなった手は悲しそうに引っ込めらる。
それと比例して彼女の表情も曇っていった。
「翼先輩達とはもう踊ったんよ!それに、」
――――踊ったのか。
いや、べつに彼女が楽しければそれで良いのだが、やっぱり気にくわない。
こんな理不尽な思いはただの身勝手な我が儘にしか過ぎないのだろうけども。
「・・・・ウチは、棗と踊りたい」
注意していなければ聞こえない、蚊の鳴くような小さい声でそう言われてぎゅっと指の先を掴まれた。
顔を見れば瞳いっぱいに涙が溜まっていて今にも泣き出しそうになっている。
先ほどまで馬鹿みたいに笑っていたくせに、そんな顔をするな。
顔を顰め、内心で溜息を吐いた。
彼女の泣き顔は苦手だ。
自分まで気分が沈むし、とてつもない罪悪感に駆られる。
涙を流すすんでの彼女を元のような笑顔に戻す方法は一つしかない。
掴まれている指を彼女のそれに絡め返すと音楽が響いている方へ引っ張り、歩き出した。
「な、なつめ?」
突然動いた此方の意図が分からないようで、不安げに見上げてくる彼女。
歩みはそのままに顔だけで振り向き、口を開けた。
「踊るんだろ、ダンス」
素っ気無く、でも小さく笑みを含ませながら言うと涙目だった彼女の顔にすぐいつも通りの笑顔が広がった。
やっぱり、こっちの方が全然良い。
そう思いながら絡めている指の力を強くすると、同じように握り返してくれた。