柔らかい日差しにあたるとキラキラ輝いて見えて、そのきめ細かさがより鮮明に分かる。
穏やかな風にさらさらと靡くそれに目を奪われ、おもわず触れたくなった。
「―――何か用ですか、先生」
目の前から聞こえた声にはたと我にかえれば、怪訝そうに此方を見上げてくる顔。
自身の手元を見ればしかと握られている色素の薄い茶色の髪の束。彼女のものだ。
どうやら無意識のうちに手を伸ばしてしまっていたらしい。
「いや、お前の髪って綺麗だなーと思ってたらつい」
悪い悪い、と軽く口先で謝るものの、手はそこから放さず妙に癖になる彼女の髪を弄り続けた。
絹糸のような艶と手触り。
自分の髪とは全然違うそれが不思議でたまらない。
「・・・・っ離して」
「えー、いーじゃん。もう少しだけだから、な?」
もう少しだけ、なんてのは本心ではなく本当は何時間でもこうして居たいがそんな事を言ったら全力で逃げられるか蹴りを飛ばされるかもしれない。
薄い笑みを浮かべ髪をくるくると指で遊ばせながら、髪で隠れてしまっている彼女の顔を下から覗き込む。
見ると、顔が耳の付け根まで真っ赤に染まっていて。
まさかそんな顔をしているとは思っていなかったので、驚きが隠せない。
随分と長い間彼女と過ごしたが、今までに見たこともない顔。
泣き顔とも微笑い顔とも怒っている時の顔とも、違う。
そしてどうして彼女がそんな顔をしているのか分からない。
湧き上がってきた疑問とその表情を見て感じた不思議な気持ちとが入り混じる。
食い入るように見ていてふと目が合わさると、彼女の方からわざとらしく目を彼方に逸らされた。
途端、胸にぶわっと広がったのは安堵のようながっかりしたようなよく分からないもの。
「・・・セクハラですよ、これ」
「お、おー」
口ではそう悪態を言われたが、彼女はその場に立ち止まったままで逃げようとも蹴りを入れようとする様子も見えない。
思わず声音が震えてしまった此方とは違い、いつもとまるで様子が変わらない彼女。
声が震えているだけでなく、緊張している理由など無いはずなのに手がひどく汗ばんでいて強張る。
心臓だって全力疾走をしたかのように動悸が早くて苦しい。
いったい何なんだ、これは。
自身を食いばむ正体不明の物体に悩みつつも、取り合えず今は彼女の髪を堪能するべく手を柔らかな髪の中に透きいれた。