今、セントラルタウンでたいへん人気なカフェがある。
一流のアリス職人によって作られた、一緒に食べる相手によって味が変わるという噂の不思議なパフェが食べられる店。
ふたりの仲が良いほど美味しく、悪ければ不味い。
互いの仲を確かめられるということでカップルが良く訪れる。
それで愛が深まった者も居ればまた別れてしまったものも数多い。
「あ!此処や、このお店っ」
いつもよりお洒落をした格好の彼女がその店を指差した。
外観は英国を想像させる洒落た作りでありシックな雰囲気が漂っている。
長い髪を揺らしながら笑顔で嬉しそうに店内へと入っていく姿を複雑な面持ちで見つめ、
重い溜息を吐いて覚悟を決めると、自身も後に続いて中へ入った。
彼女が新しい流行りのものに興味が惹かれることは良く知ってる。
自分の彼女への気持ちも彼女の自分への気持ちも疑っているわけではないが、あまりこういったことは好きではない。
それに万が一、不味かったりしたらどうなるのか・・・・考えたくもない。
「うわあ・・・!」
席に着き注文をして間もなく、例のパフェが運ばれてきた。
アイスクリームやミニクレープなど様々なフルーツが器に盛り合わされている。
キラキラと目を輝かせている彼女とは対照的に、自身はそれを見てたじろいだ。
元々そんな好きではない甘いものをこんなにも食べ切れるのだろうか。
見てるだけで腹がいっぱいになり吐き気までしてくるというのに。
自分が怖じ気づいてる間に、目の前の彼女はスプーンいっぱいにパフェをすくって頬張った。
「・・・・・・・・・」
長い沈黙。
パフェと一緒に口に含んだスプーンをそのままに、身動きひとつしない。
まさか声も出せなくなるほど不味かった、とか。
不穏な気配を感じ、たらりとこめかみに汗が流れ落ちた。
やけに大きな音をたてて唾を飲み込みと銀のスプーンを掴み取りパフェをすくう。
それを口元に持っていくと漂う甘い香りが鼻につき嫌悪感を抱いたが、真実を見極めるため勢いよく口内に突っ込んだ。
「・・・・・・!」
舌の上に広がっていくその味に目を大きく見開く。
声が出ないほどに" "。
あまりの衝撃に驚いて言葉を失っていると、ごくんとパフェを飲み込む音が聞こえた。
「おいしい・・・なんやこれ、美味しすぎる!」
ずっと固まっていた彼女だったが、急に声を荒げて感嘆しだした。
美味しい、美味しいと彼女が何度も連呼しているように、美味しいのだ物凄く。
この味を説明しろって言われても難しい。
何故なら今までにこんな感覚は一度も経験したことがないから無理なのだ。
今までにこんなものを食べたことがない。
食べた者にしか、自身と彼女にしか分からない味。
「・・・まあ、いけるな」
キャーキャーと騒いでいる彼女を他所に、冷静にそう言った。
いや、内心とても感動しているのだがそれを正直にそのまま表に出すような気性ではない。
あまりの美味しさに、一瞬でも互いの気持ちを疑ってしまった自分がとても馬鹿らしくなってくる。
疑う余地なんて何処にもなかったのだ。
気がつくとグラスの中はあっという間に空になっていた。