「お茶」
「ハイ」
カチャカチャとカップとトレーの擦れる軽い音を鳴らしながらも、一滴も雫を零すことなく丁寧な動作で机の隅に置く。
そんな一連の動きを黙って見た後、置かれたカップの中で波打っている緑茶に一瞬だけ目をやるとまたすぐに元へ戻した。
「・・・やっぱり珈琲がいいわ」
「ハイ」
機械的な動きで一度置いたカップを手に取り、再びキッチンへと戻っていくその姿を見てため息を吐いた。
どんな我が儘を言っても嫌な顏ひとつせずに何でも私の言うことを聞いてどんな命令でも常に忠実に従う。
まあ自分が作ったの物なのだから当たり前であるのだが。
でも、もしこれがあの子であったのら文句をブツブツと言い、顏を不機嫌そうにしかめるであろう。
それでも結局は私の希望通りに珈琲を入れ直してきてくれる。
―――――それが"蜜柑"だ。
「また失敗作・・・・ね」
目を瞑りふうと息を吐き出してから、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
キッチンで珈琲を沸かしている自身が生み出したそれの元に背後から近づく。
「ご主人様、」
やってきた此方に気がつき、用件を伺おうと振り向こうとするよりも早く背中に備え付けてあったスイッチを押した。
途端に止まる全ての動き。ただの鋼の塊に戻った瞬間だ。
話しかけても答えてくれることはもう二度とない。
しばらくの間動かないそれの前に立ち止まって眺めていたが、ふと思い立つとそのロボットを担ぐように部屋へ運び、転がっていた工具を手に取った。
それから、制服のスカートのポケットに手を入れ生徒手帳を取り出し、裏表紙を開く。
そこにあるのは、町内美少女コンテスト優勝時に二人一緒に撮った写真。
目を細めてそれを見てぎゅっと力強く握り締めると、ゴーグルをかけ新しいロボットの製作に打ち込んだ。
もっと、もっと、あの子に似せなければならない。
「・・・できた」
熱中していたから分からないが、何時間経ったのだろう。
やっと満足出来る物が出来た。
起動スイッチを押すと、むくりと起き上がり、閉じられていた丸い大きな瞳が開きキョロキョロと辺りを見回す。
その後、此方の姿を捕らえるとみるみるうちに顔に笑顔が広がった。
「蛍さま、蛍さま!」
あの子と同じ響き。
外見も、背の高さやツインテールの位置まで同じように作った。
それでもやっぱり誰が見てもロボットと分かってしまうような顔や手足をしている。
そこまで修正する予算も技術も残念ながら持ち合わせていないのでこれが限界だが、十分だ。
「今日から宜しく頼むわよ・・・"甘夏"」
ふっと顔の筋肉を緩めて、目の前で子犬のようにはしゃいでいる彼女に笑いかけた。
これはまだ、蜜柑が学園に来る少し前のおはなし。