閉じていた瞳を、纏わりつく睡魔に抵抗して少しずつ開けていった。
カーテンから差し込む陽の光が柔らかく部屋を照らしている。
此処は何処だったけ、なんて思い目を動かせば良く見知った人物が瞳に映った。
机に突っ伏して寝ている無防備なその姿はいつもより幼く見えて可愛いかな、なんて。
そんな顔を見てふふっと笑みを溢し幸せに浸っていたのも束の間。
此処が何処だか思い出すと、目を大きく見開いて飛び起きた。
「先生っ、起きて!」
「んー・・・」
手を伸ばして机の反対側に居る先生の肩を思いっきり揺らすと徐々に瞼が開かれていく。
だがその瞳はまだ睡魔に蕩けていた。
「ね、初詣行くって約束したでしょっ」
「あー・・・悪い、うっかり眠っちまったな」
あちこちに跳ねている髪をガシガシと掻きながら口には大きな欠伸。
全然悪いと思っていないその様子に悲しくなった。
窓の外を見ればもう日が高く上ってしまっている。
今から行っても人がいっぱいで、一緒に行くことなど到底出来ない。
誰か偉い人に見られたら問題になってしまうし。
折角久々に外でデート出来ると思ったのに、最悪だ。
「初夢見たか?」
どよんと暗く沈んでいる此方にかけられた声。
顔を向けれると、元は先生の物だったが勝手にお気に入りにしたマグカップに入っている熱いコーヒーを差し出された。
白い湯気がたっているそれを無言で受け取る。
じーっと揺れる湯気を見た後、ゆっくりと口に含んだ。
「・・・見た」
「へえ。どんな?」
視線をカップの中身から先生に移すと彼も同じように此方を見ていて、目が合ってしまった。
そして此方を見るその目がひどく優しくてとくんと胸が鳴ったが、気恥ずかしくなりすぐに目を逸らす。
そのままの向きで小さく口を開いた。
「先生と私と・・・、」
開けた口の大きさに比例して声もかなり小さい。
それでも、二人しかいない、静かなこの部屋の中で相手の耳に入るのはそう難しくはなかった。
「―――私達の子供と、三人で仲良く暮らしてる夢」
そこまで言って、肺の中に溜まっていた空気を吐き出す。
目の前に居る先生の顔を見るなんてとても出来ず、顔を俯かせたままコーヒーを一口啜った。
一体どんな反応をするだろう。
飲み込んだ熱いコーヒーが体内を流れていく感覚を、リアルに感じる。
「・・・マジかよ、」
聞こえたのは、驚きを隠せていない声。どんな顔をしているか容易に想像出来る。
やっぱり、あんな自分の理想図を描いたような夢のことなんて、言わなければ良かった。
カップの柄を両手で握り締めて、現実を遮るように瞳も力強く閉じる。
あんなこと言っても迷惑にしかならないって分かっていたのに。
後悔の念に押しつぶされているその時、聞こえた声は予想外のものだった。
「俺も同じ夢、見た」
顔を上げて見れば、照れくさそうに笑う顔。
目を見開いて呆気に取られていると、容赦ない強さで頬を抓られた。
信じられない・・・けど、抓られた頬の痛さが夢ではないと教えてくれる。
先生も同じ夢を見てくれたなんて。きっと自身と以心伝心しているに違いない。
へにゃりと締まりない顔になったのが自分でも分かった。
そんな此方を見て、先生の表情も柔らかくなっている。
だが何かを思いついたようでその顔は悪戯そうな笑みに変わり、楽しそうに口を開けた。
「夢は願望って言うし、近いうちに叶えるか」
「・・・バカっ!」
セクハラ同然な科白を言い此方の反応を楽しんでいる彼に向かって、顔を真っ赤にしながら手元にあったクッションを投げつけた。