綺麗な着物を着て、たくさんの御馳走を食べて、皆でワイワイと楽しく過ごす・・・・はずだった。
それなのに今、自分が着ている服はくしゃくしゃに皺の寄ったパジャマで、隣のサイドボードに乗せられているのは冷めきった味気のないお粥。
そして、静かな部屋の隅にあるベッドの上で一人ぼっちだ。
無音な部屋の中ではごほごほっと咳をする音がよく響く。
目だけを動かして部屋の中を見渡しても誰も視界に入らなくて、その光景を遮るように瞼を閉じた。
今日は新年の始まりの日であり、それはまた自身の誕生日でもある。
皆で集まる新年会と平行して誕生日パーティーも開いてくれる、とずっと前から聞いていた。
話を聞いた時からずっと楽しみにしていたのに、今の自分ときたらベッドから起き上がることすら出来ないでいる。
冬休みだと浮かれて毎日遊びに出掛けたせいで見事に風邪を貰ってきてしまったのだ。
喉がイガイガして咳が止まらないし、鼻も詰っていて苦しい。そして極めつけは39度を越える高温の発熱。
寒いんだか暑いのかすらもよく分からなくて頭がぼうっとする。
健康だけが取り柄だったから、こんなにも辛い風邪をひいたことなんて一度もなかった。
身体がダルく思い通りに動かない倦怠感も、誰かが傍に居なくて寂しくなるなんていう心細さも初めて経験する。
皆はきっと今頃楽しんでいるんだろうな、なんて考えると何故だろう。寂しくて、悲しくなる。
そろりと閉じていた目を開けば視界が滲んでいて、映るもの全てがぼやけて見えた。
瞬きを繰り返しても視界がクリアになることはなく、何かに縋るように弱弱しく天に向け腕を伸ばす。
握っても空を切ると思っていたそれだったが、ふと自分のものよりも一回り大きいひんやりとした冷たい手が絡められた。
「なつ・・・め、」
仰向けだった体をごろんと横に転がせば、眉間に皺を寄せて心配そうに此方を見る顔があった。
体を動かした拍子に瞳に溜まっていた涙が目頭を伝い流れ落ちてシーツにしみを作る。
すると握られているのとは逆の手が迫ってきて撫でるように雫を掬い取られた。
「どうして・・・此処に」
今は新年会の真っ最中なはずだというのに。
しかも、彼を見れば学園から新年に着るよう支給される着物を身に着けておらず普段通りの私服姿である。
「―――お前が居ないとつまらねーから、」
抜け出してきた。
顔を崩して微笑いながらそう言う彼を見ると、自身の顔も自然と綻んだ。
風邪がうつるかもしれないというのにこうして会いに来てくれて嬉しい。
握られたままの手を火照っている頬に当てた。
彼の手の冷たさがじんわりと伝わってきて気持ちが良い。
「・・・・何かして欲しい事とかあるか?」
「ん・・・もう少しだけ・・・手、握ってて欲しい」
ぎゅうと手を握り締めると力強く握り返してくれた。
彼の手は冷たいけれどちゃんと温もりが伝わってきて安心する。
熱のせいで訳もわからず悲しくなったり寂しくしたが、彼が傍に居てくれると分かるだけですーっと気持ちが落ち着いていく。
此方を穏やかな表情で見つめている彼を最後に、ゆっくりと目蓋を閉じた。