鏡に映る長い栗色の髪の女を見る。
この姿を見るのも、これでおしまい。
「・・・・本当に良いのか、柚香」
「うん、決めたから」
彼は小さく息を吐くと、躊躇いがちに鋭いはさみを自身髪の内側に差し込んだ。
シャキン、とはさみが擦れる軽快な音がたつと髪の束が一つ地に落ちる。
それを皮切りにして次々に髪が切られていき、だんだんと地面に栗色の海が広がった。
今まであったものが無くなることで元には戻れないのを実感させられ、決意が固まっていく。
もうあの頃には戻れない、戻らない。
先生は前にこの長い髪が好きだと言ってくれた。
だから手入れを毎日頑張ってして、この髪がもっと好きになった。
この先もずっと長いままでいよう。
そう思っていたけど、好きだと言ってくれた貴方は何処にも居ない。
それじゃあこの髪に何の意味もなくなってしまった。
この先一人で踏ん張って生きていかなければいけないのに、先生のことを思い出されてしまいこんな物邪魔だ。
だったら、切り落としてしまおう。
女としての自分に踏ん切りをつけるために調度良い。
切望していた唯一の家族である蜜柑も、手放した。
もう自分には何も残っていない。
昔に夢見た未来とはひどくかけ離れているが、幾ら嘆いてもこれが現実。
過ぎ去った過去と離別してただひたすらに前を向いて、救いのない袋小路の未来を進んでいく。
それ以外に自身が歩む道なんてないのだ。
「・・・・終わった」
その声にいつのまにか閉じていた目蓋を開いた。
鏡には数分前とは違う女の姿が映っている。
生まれ変わった、はたまた生まれた、新しい自分。
さよなら、先生。
さよなら、・・・・私。
さよならシェリー