『学園アリス*鳴海と柚香』
最終改訂 2010.03.04
「ちょっ、待ってよ柚香先輩!」
「急ぎなさいよ!早くしないと次の講義に遅れるでしょっ」

此方がまだ食べ終わっていないというのに、自分が食事を終えると席を立ち上がり出ていこうとする先輩をなんとか引き止めた。出口の前で仁王立ちをし腕を組んで睨むように此方を見てくる視線に急かされ食べかけの昼食をお茶で無理矢理に流し込む。
食べ終わったのを確認した先輩はくるりと踵を返し無言で歩き去っていくのが見え、自身も急いで荷物を掴み取りその後ろ姿を追いかけた。

「・・・・少しぐらい待っててくれても良いじゃん」
「時間にルーズなのは嫌いなの」

追い付いて隣に並びながら不満を漏らすと一喝される。べつに自身だってちんたらと無駄に時間をかけて食べていたわけではない。それに、腕の時計を見たがまだ講義が始まるまで30分もあった。要は先輩がせっかち過ぎるのだ。いつも教室にだって一番乗りだし。しかし、好きでそんな彼女に付きまとっているのだから自身が文句など言える口ではないのだけれども。
月日は四月に流れ、俺は大学生になった。それなりにキャンパスライフとやらを楽しんでいる。そして相も変わらず、再び同じ学校に入学したことにより昔のように柚香先輩にべったりだ。学部も同じで四六時中傍に居ることになるのだが、付き合っているというわけではない。あの日、意を決して長年抱えていた気持ちを伝えた俺に先輩はこう言った。


***


沈黙が流れた。先輩の言葉を待つ自身にとってそれは何時間にも感じられたが実際は一分も経過していなかったかもしれない。緊張で口の中に溜まっていた唾を喉を鳴らして飲み下した。すると何か考えていたようだった彼女が神妙に口を開いた。
一言一句聞き逃さないように耳を澄ます。

「・・・・ナルのことは好きだけど、それはアンタが言った好きとは違う」

――――ずっと前から分かっていた、そういう対象として見られていないって。
彼女が自身に向けてくれているのはまるで弟に対するようなそれで。けれど、もしかしたら・・・・なんて淡い期待をしてしまったのだ。身の程知らずだったと思う。
先輩を直視できず視線ごと顔をふいと反らした。惨めで、憐れで、この場から逃げ出してしまいのを膝を手で抑え耐える。振られたうえにそんな格好悪いことできるもんか。
そんな此方の心境を知ってか知らずか彼女は言葉を続けた。

「でも・・・でもね、アンタと一緒に居ると楽しいし、なにより安心できておちつくの」

少女漫画でありがちな激しいトキメキも刺激もないけれど不安や涙もない。
彼女は呟くようにそう言った。予想だにしなかった言葉にぱっと顔を向けるとそこには柔らかく此方に微笑みかける眼差しがあった。

「だから私を好きにさせてみせてよ、アンタと同じ゛好き゛に」

事態が飲み込めず呆然としている此方に彼女はそう言い放ち不適に笑ったのだ。


***


あれから日にちが経ったわけだが先輩との関係は変わりない。むしろ前よりもぞんざいに扱われている気がしてならないのだが。こんな調子でいつか恋人になれるのだろうかと考えるとため息がでる。 項垂れるとそんな自身を慰めるかのように頬を桜の花びらが撫でた。見上げればたくさんの木々を桜が桃色に染め上げている。そういえばこの大学はキャンパス内の桜並木が有名であり、受験の時に見たまだ蕾だったものが花開いたようだ。風が吹きふわりと舞い上がった花吹雪の美しさに目を奪われ、なんだか元気付けられる。
ふっと顔を綻ばせ大きく息を吸い込むと、距離のできていた先輩の元まで駆け寄って、勢い良く後ろから抱きついた。



焦がれよ、純愛!

(絶対好きにさせてみせる!)
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