「・・・・なによ、あの態度」
急に走り去っていった後ろ姿に訳が分からず呆気に取られていたが、ようやく言葉を発する余裕ができた。
どうして彼はあんな態度をとったのだろう。
世話になった先生にたいして失礼じゃあないか。
「まーたお前が何かしたんじゃないのか?」
「私はべつに・・・」
自分のせいではないか、と言ってくる先生にムッとする。
これといったことはしていないと、思う。というか"また"ってなんだ"また"って。
今までにだっつ何かをした覚えはない。
此処に来るまでは機嫌良さそうに見えたのに、急に無愛想になったナル。いったいなんなのだ。ただ遊びに行く前に、先生の所へ挨拶しに寄っただけだというのに。
まるで理解出来ないナルに不満が募り、さらにしかめっ面になる。そしてそのまま考え込むが答えは見つからない。
「・・・そもそもお前等どうして今日、二人一緒に居たんだ?」
「ナルの大学合格祝いに何処か遊びに行こうと思って・・・、」
そうだ、せっかくこの後のプランも色々考えてきたのに。自分だって曲がりなりにも今日のことを楽しみにしていたのだ。
それがこんなことになるなんて誰が予想しただろう。
こうなった経緯を一通り説明し、やり切れない思いにうなだれていると、先生がわざとらしく大きなため息を吐いた。
そして此方に向かって開口一番に発せられた言葉は。
「お前は男心が全然分かってない!」
びしっと真っ直ぐに指をさされながら先生はそう強く言い切った。思わずたじろぎ身を引く。
「・・・・男心って言われても、」
自身は女だし。理解しろと言う方が難しい。
だいたい男心とナルのことと何が関係あるというのか。嗚呼もう先生のことも全然分からない!
「ったくお前がそんなんだから周りがな・・・っていいから早くアイツのこと追いかけろ!」
ぐいぐいと背中を押されて追いやられる。
腑に落ちないことばかりだけれど先生の言う通り、出て行ってしまった
ナルをこのまま放っておくわけにもいかないのでしぶしぶこの場を後にして駆けだした。
***
自分でも馬鹿なことをしたと思う。
あんなことで拗ねて、感情のままに行動してしまうなんてやっぱり自分はまだまだ子供なんだと実感させられる。深いため息を吐いた。
結局あの場から逃げ出してきたものの、そのまま家に帰ることなど出来ず予備校の近くの公園で佇むことにした。
人一人居らず頭を冷やすのにはちょうど良い場所だった。
悶々と考え込むもののもう過ぎてしまったことはどうしようもない。
この行き場ないモヤモヤを吹き飛ばそうとただ腰掛けていたブランコを思いっきり漕ぎ出した。
「・・・・何やってるのよ」
「なっ・・・・せんぱいっ、」
勢いにのってきた所で思いもよらない声が掛けられた。
声だけではなく姿も見え、急いでブランコを止めようと足を地につけたらそれに身体が付いていけずぐしゃりと顔から見事に着地した。
――――むちゃくちゃ痛い。
「・・・・・馬鹿じゃないの」
馬鹿だよ、どうせ。
胸中でそう自虐的に悪態をつき、顔についた汚れを服の袖でぐしぐしと拭った。
すると目の前に薄い桃色のハンカチが差し出された。もちろん、それの持ち主は柚香先輩。
「・・・いいよ、ハンカチ汚れるし」
「・・・・・・」
せっかくの好意だがこんな格好悪い所を見られてしまい、もう放っておいてほしかった。
だがそんな思いも空しく、受け取らなかったハンカチで先輩が勝手に自身の顔を拭きだした。
拒もうとしても聞く耳を持ってくれず、されるがままになる。沈黙が苦しい。
「・・・・ごめん」
「・・・・・どうして先輩が謝るの、」
迷惑かけたのは自分の方なのに。彼女が謝る必要はない。
「よく分からないけど、私のせいで機嫌損ねたみたいだし」
理由が分かっていないというのに謝るのか。
また沸々と感情が煮えてきたが今度はそれを露わにすることなく上手く押しとどめた。
感情任せに行動するのはよくない。いつまでも我が儘を言っていないで自身だって大人にならなければ。
「・・・・俺の方こそ悪かったよ」
「本当よね、まったく」
やっぱりアンタが全て悪い!と開き直られた。
つくづく現金な人だな、と呆れを通り越して笑いがこぼれた。
「さてと、じゃあ行こっか」
汚れを全て拭き取られるとすくっと先輩は立ち上がった。行くって何処へ行くのだろう。疑問そのままに先輩へ問いかけた。
するとまたふんわりと微笑まれ、一言。
「デートの続き」
しゃがみ込んでいる此方に差し出された手を、嬉しさを隠さず真っ直ぐに掴み取った。
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