一日が終わり新しい日に切り替わるかという刻の頃、こっそりと部屋を抜け出した。
ひたひたと足音をさせないよう体重の掛け方に気をつけて、逸る気持ちを抑えながら一歩一歩慎重に歩みを進めていく。
何故こんな深夜に部屋を出ているかというのにはちゃんと理由がある。
今日は所謂クリスマスであり、それの定番といえば朝目覚めたら枕元にプレゼントが置いてあるということ。
所詮そんなことは幼子の夢でありこの年にもなって信じているやつはほとんど・・・いや、関西弁を話すツインテールの少女一人以外いない。
此処まで純粋に信じてもらえてサンタとやらもさぞ本望だろう。だが信じているとはいえ、彼女の元にプレゼントが届くことはない。
期待たっぷりに朝目覚めて枕元に何もなかったら彼女はたいそう落胆するだろう。
折角のクリスマスにそんな悲しい展開を迎える様子を、黙ってみていられない。
だから代わりに自分がプレゼントを置いてやろうと考えた。
わざわざ自主的にこんなことをするなんて自分は甘くなったものだ、と思う。
けっこうな距離を歩いてて彼女の部屋が見えてきた頃、その部屋の前にいくつか人影が見えた。
こんな時間に彼女の部屋の前で何をしているんだ?
まさか本当にサンタが来たとか・・・・待て、そんなことあり得るわけがない。
じりじりと気づかれないようにじりよってその人物達の姿を見る。
―――サンタが、居た。
「あっれー棗じゃん」
サンタに名前を呼ばれる。
いや、正確にはサンタクロースの格好をしているよく見知っている男にだ。
普段から祭り事等が好きで浮かれている奴だが何故こんな格好をしている。
「・・・・何やってんだお前等」
そこに居たのは一人だけでなく、翼を初めとする野郎共一同。皆同様に赤いサンタ服に身を包んで白い袋を持っている。まさかとは思うが・・・・
「あれだよ棗くん、蜜柑ちゃんがサンタクロース来るの待ってるから代わりに僕達がプレゼントあげようと思ってね」
教師である彼が規則時間外であるというのに出歩いてこんなことをして良いのだろうか。疑問に思うが下手に突っ込むとこの場に居る自身も咎められそうなので不服ながら口を噤んだ。
どうやら彼等と自分は同じ事を考えていたらしい。そしてよりにもよってはち合わせるとはタイミングが実に悪い。
「きっとさ、お前も来るんじゃないかと思って」
お前の分のサンタ服、と言われじゃじゃーんという効果音付きで目の前に取り出された。その用意周到性の良さに呆れを通り越し感心する。此処までするとはたいしたものだ。しかし、
「・・・・俺は着ない」
そんな仮装大賞みたいな真似できるか。それにプレゼントをさっと置いてくるだけで良いのにわざわざめんどくさい。生憎自分はそこまで凝り性じゃないのだ。
「まーそう言うなって!折角だし、なっ?」
「絶対に着ない」
「・・・・じゃあ仕方ねーな、」
諦めたかと思った直後、背後からにゅっと手が伸びてきて体を逃げられないよう強く固定された。驚きの表情を浮かべ身動きをし呪縛から抜け出そうとするがやはり体格差では適わず意味を成さなかった。もうこの体勢ではどうすることもできない。
「・・・・これも蜜柑のためだと思え!」
覚悟を決めて瞼を閉じた。
メリー・クリスマス
(なんて最悪なクリスマスだろう)