『学園アリス*鳴海と柚香』
最終改訂 2009.12.18
むくりとベッドから起きあがって大きな欠伸を一つした。そしてなんとなく窓の方を見ると寒さでガラスが結露している。こんな寒そうな日に通っている大学が休校で良かったと思った。何故休みなのかと言うと今日は我が校の大学受験が行われるのである。県内でも三本の指に入る難関校。自身も入るのに苦労した。母校である高校は対して偏差値が高くない、むしろ並以下の学校だったのでかなり無謀な挑戦だったのだ。周囲にも無理だと言われ続けたが、予備校の優秀な先生のおかげで補欠だったが合格することが出来た。
そして今年、母校の高校の後輩でそこを受ける受験生が一人だけいる。
部屋の空気を入れ換えようと窓を開けると家の前に立っている思いがけない人物が見えて、部屋を飛び出した。

「ナル!あんた今日受験でしょっ」

どうしてこんな所に居るの!
バタバタと大きな足音をたてながら家の外に出てきて、その人物に駆け寄った。生憎、寝起きであったため身に纏っていたのはパジャマであったがそんなこと気にしている場合ではない。受験当日で、もう試験の開始時間まで後二時間しかないと言うのに彼は何をやっているのだろう。
まくし立てると剣呑としついた彼が重苦しく口を開いた。

「先輩どうしよう・・・俺絶対落ちる・・・」

それだけ言うとため息を吐いて再び口を閉じ込み無言になった。
いつもはいやに自信家な彼だというのにそれがどうだろう。今では自信なんて何処にも見えなくて、こんなにもネガティブに暗く沈んでいる。自信喪失は自身もなったし受験前にはよくあることだが、よりにもよって当日にこうなるなんて。つい先日までの余裕ぶっていた彼を連れてきて罵倒して貰いたいものだ。 当然の如く、そんなことは叶わないので代わりに自分がして元気づけてあげられることと言えば――――

「・・・受かったら、デートしてあげるから頑張りなさい!」

頑張った先にご褒美を用意してあげる。自身に好意を抱いてくれている彼なのであるが、こんなことぐらいしか思い浮かばなかった。さすがに付き合ってもない相手にキスなどは出来ないのでこれが自分なりの精一杯。

「ほんとっ、本当にっ!?」
「うん、約束」

自身だって彼のことは嫌いじゃないのでそれぐらいはしてあげて良いと、思う。
それで彼が頑張れるなら安いご用だ。

「俺、絶対に合格するから!」

予想通りに、いやそれ以上に見事向上した彼のモチベーションにほっと安堵のため息と微笑いをこぼした。



きっと桜咲くよ

(貴方が努力していたのを知っているから)
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