「ね、柚香先輩・・・・俺とゲームしない?」
唐突にそう声を掛けられて、やっていた課題から顔を上げるとそこにはやけに機嫌良さげで楽しそうに笑みを浮かべている後輩の顔があった。
その様子に何故ろだうか、悪寒がしてきてぶるりと小さく身震いをした。とても嫌な予感がする。
「・・・やらない」
女の勘とは時に良く当たるものであり、考えるよりも早く拒否する言葉を口が紡いでいた。きっと何か企んでいるに違いない。そうじゃなかったらゲームなんて真似を彼がするわけがない、と思う。
楽しげだった彼の顔が一瞬固まったが、何か思いついた様子を見せた後、先ほどよりも深く口角が上へとつり上がった。そして口が開く。
「ふーん・・・負けるのが怖いんだ?」
先輩ってば臆病者だね。
そう言われて終いにはふっと鼻で嘲笑われ、元々そう高くない沸点に怒りが到達した。
誰が負けるのが怖いだって?――――冗談じゃない。
「・・・やっぱりやる」
「いいよ、無理しなくて」
「やるって言ったらやるのっ!」
声を荒げて反動で立ち上がり、だんっと強く机の上を叩いた。馬鹿にされたままで黙っていることなんて出来ない。ムキになっている此方に彼はやれやれといった表情を浮かべた。なんだ、元々ゲームをしたいと言い出したのはそっちの方じゃないか。
「・・・・はい、じゃあこれくわえて」
くわえろと言われ差し出されたのは一本のチョコレートスティックのお菓子、ポッキー。
こんな物で何をするのだろうかと疑問に思いつつも言われたままにポッキーの先を口へと含んだ。
「先に口離した方が負け、だからね」
その言葉の意味を深く考えず、ポッキーが口にあるため声はだせずこくんと首を縦に振ると彼がその反対側を口に含んだ。そしてそのまま食べ進んでくる。
・・・・ちょっと待て。自分たちの間にあるこの一本のポッキーを食べていけばその距離はどんどん短くなる。そして最後まで口を離さなかったらその行く末は――――
考えついた結論にさあっと血の気が引いてポッキーから口を離し、それだけではなく目の前まで迫ってきていた彼をとても女子とは思えない力で突き飛ばした。
「いってぇ・・・」
「な、何考えてるのよっ、この変態!」
最低!節操なし!
痛がっている彼を余所に罵倒する言葉を次々と吐き捨てていく。
危うく大変なことをしてしまうところだった。全く、油断も隙もあったものじゃない。
「ちぇっ、上手くいくと思ったのに」
残念、と打った腰をさすりながら彼はブツブツと小言を述べている。悪びれる様子が何処にも見えず、沸々と腹の底から怒りが沸き上がってきた。
「あんたねぇっ・・・!」
耐えきれなくなった怒りを爆発させようとした時、それを受けるよりも早く察知した彼が"ごめんごめん"と舌を出して口だけの謝罪を述べて部屋を飛び出していった。
あなたもわたしもポッキー
(悪戯の中に隠れた本音)