彼女と共にこの暮らしをするようになって分かったことがたくさんある。
猫舌で熱いものが飲めなかったり、苛立っている時に足を何回も組み替えたり。
そんな些細なことだが自身が知らなかったことは多々あった。
その中でも一番驚いたことがある。
「・・・ごめん、また焦がしちゃった」
焦がした、というフライパンにこびりついている黒い炭の固まりを持って彼女が申し訳なさそうに部屋に備え付けの簡易キッチンから顔を出した。
そう、自身が驚いたというのはこれ。彼女は壊滅的に料理が出来ないのだ。何を作ってもこのような黒い固まりになってしまうというミラクル。
ある意味すごい。
「・・・・もういいよ、僕が作るから」
今日もまた懲りずに食事を作っていたが結果はいつも通り。
こうなることは想定内で期待はしていなかったのだが。
焦げ付いているフライパンを受け取って彼女がキッチンから出ると代わりに自身が中に入った。
昔から何事もそつなくこなしていたので料理もある程度は出来る。
男の自分には必要ないと思っていたこんなスキルが大役立ちすることになるとは人生何があるか分からない。
「・・・いつも何も出来なくてごめん」
「気にしなくていい・・・・僕も好きでやってることだから」
キッチンを出た所で立ち止まって謝罪を繰り返した彼女にそう言った。
料理も、彼女とこの暮らしをしていることも、全て自分が好き勝手にやっていることだから。
「・・・・ありがとう」
そんなお礼の言葉を彼女に言ってもらう資格なんて、自分にはないのに。
盲目アドバンス
(前に進みしか道はない)