コンコン。部屋の扉をノックされて立ち上がった。
此処にわざわざ訪ねてくるのは蜜柑ぐらいなので、どうせまた彼女だろうと開けたがそこには誰もいなかった。
「・・・にーちゃん」
いや、声をした方に目線を下げるとそこに居た小さな来訪者が視界に入った。
危力系の自身の幼い後輩。
「・・・・陽一」
「とりっく、おあ、とりーと」
拙い発音でそう言って両手を大きく前に差し出された。
その科白を聞いてやっと今日が何の日か気が付く。陽一が此処に訪ねて来た訳も。
今日は年に一回の収穫祭。つまりはハロウィン。
良く見れば訪ねてきた陽一の格好も普段とは違う。
見た感じだと恐らく狼男、だろうか。全然怖くなくむしろ可愛い犬みたいだ。思わず表情が緩まった。
「ハッピーハロウィン」
今日という日を忘れてすらいた自分がお菓子を予め用意していたなんてことはなく、たまたまポケットの中にあった飴をバラバラと降り渡した。
まさか自身から貰えると思っていなかったのか陽一の目が小さく見開いた。それを見て苦笑する。
まあ他の輩だったらわざわざこんなことしないで追い返していたと思う。此奴は自身の大切な人物の一人であるため特別だ。
「・・・ありがと」
短くお礼を言って、ぎゅうと綺麗な包み紙に入った飴を大事そうに握りしめる。すると何処へやら掛けだした陽一の後ろ姿を穏やかな表情で見送った。
スペシャルハロウィン
(たまにはこんな日も良いかもしれない)