学園内では今頃授業が行われているかという頃、自身は部屋のベッドの上で寝転がっていた。
そして部屋には何処からか湧いて出てきて、自身に勝手に付いてきた中等部の後輩も居座っている。
「ねえ、ナル先輩」
部屋の中心に座り室内を見渡していたその彼が声を掛けてきた。
だが体を横たえたまま目を開けることすらせず聞き流す。
相手にするのがめんどくさい。
いったい彼はこんな不愛想な自分の何処を気に入っているのか常々疑問だ。
優しくしてやったことなんて一度だってない。
それなのにちょろちょろと付いて来られて正直邪魔くさいが、拒むことすらめんどくさい。
「この女の人だれ?」
女の人。
その単語に反応してがばりと体を起こすと、ベッドの上から彼の持っているものを捉えた。
写真立てに大事に入れられた一枚の写真。それに写っている女の人とは、もちろん。
「・・・勝手に見ないでくれる、」
ベッドから降りもの凄い勢いで奪い取ると鋭く睨みつけた。
ビクリと彼の肩が揺れる。
それからひどく驚いた顔で口だけが"すいません"と動いた。
べつに怯えさせるつもりはなかったのだがナイーブな処に触れられつい強気になってしまった。
一つため息を吐くと、唖然としてる彼の頭をくしゃりと撫で写真立てを机の引き出しにしまう。
「・・・彼女、ですか?」
先ほどの事で後悔してないのか果敢にも彼は写真の人物について問いかけてきた。
今度は口の中でため息を押し殺した後、答えるかどうか悩んだ末重い口を開く。
「・・・・違うよ」
そんなんじゃない。
手を伸ばしても届かない、届かなかった人。
「じゃあ、好きな人とか」
「さあ・・・どうだろうね」
好きだなんてそんな綺麗な思いじゃない。最早これはただの執着。
今でもまだこんな物を飾っているなんて馬鹿らしいと思う。
それでも貴女を過去の人になんて出来なくて、忘れられなくて。
どうせなら"おもい"だけじゃなくて共に過ごした思い出も盗ってくれれば良かったのに。
こんな酷いことをした貴女のことなんて、一生忘れてやるものか。
――――嫌いになんてなるものか。
中途半端に残していった貴女が全て悪いんだ、この先二度と会えなくても捻りねじ曲がった愛を叫び続けるよ。
迷宮ホスピス
(出口なんか視えない)