スーパーノヴァ

きっかけは、ごく些細なことだった。
たまたまテレビのチャンネルを回していてその秀麗な演技を一目見た途端、思考を全て奪われ息を吸うことさえ忘れた。 薄い氷の上でなめらかに弧を描いていき次々に綺麗な動きで技を決めていく。
―――すごい。 今までフィギュアに興味なんて毛頭なかったけれど、一瞬にして今までの考えが翻された。
いつのまにか興奮して握りしめていた手はひどく汗ばんでいて、興奮で身体が震えている。
自分も同じようになれたら、どんなに素敵だろう。

「むむむむむむりやって!あかん!絶対転ぶっ」
「大丈夫だ・・・・多分」
「多分ってなんやねん!やっぱりあかーんっ」

そんなやりとりを延々と繰り返すこと、数分が経っていた。
あれから、すっかりフィギュアに魅了されてしまった自分は幼なじみの少年を誘ってスケートリンクへとやってきた。自分もやってみたい、と思ったのだ。 ・・・そこまでは良い。 だがいざ来てみると氷は想像以上につるつるとしていて、見るからに滑って転んでしまいそうだ。それが怖くてリンクに入ることすら出来ない。 現に、転んで痛がっている人を何人も見た。 地面でスケート靴を履いて立つことだって困難な自身とは一方、同じく初めてスケートをやるにも関わらず引き連れてきた彼はとうに易々とリンクへ入っていて、此方を待っている。
この違いはなんだろう。

「・・・支えてやるから、ほら」

見かねたのか、手を差し伸べられる。 せっかく来たのだからいつまでもこうしているわけにもいかないし、覚悟を決めるとおずおずとその手を掴んでリンクに足を踏み入れた。 足が氷にすくいとられる。

「ぜっったいに放さんといてなっ」

ひし、と握った手を強く握りしめた。
これが放れたら確実に倒れる。 この状態ですら転びそうだがなんとか踏ん張っているのだ。

「放さないから、もっと力抜け」

無理。言葉にする余裕もなくてそう顔で必死に訴えた。
こんなむちゃくちゃに滑る氷の上で力を込めることを止めてしまったらどうなるか目に見えてる。
今だって氷の上に乗っているというより靴を氷に突き刺しているというような形容の状態なのだ。

「・・・分かった、もういい」

"もういい"
そう言われ、いいかげん愛想をつかされて手を放されるのかと思い、さあっと血の気がひいた。 もともと彼は気の長くない性分だ。今日だってほとんど無理矢理に連れてきたわけだしこんな自身に呆れるのも分かる。
嗚呼もう駄目だ、支えがなければとても耐えられない。
覚悟を決めてぎゅっと目を閉じたが、いつまでたっても握りしめた手が放される気配はなかった。
それどころか彼の方からも強く握りしめられる。

「・・・・いくぞ」
「え、えっ?」

何ごとかと問う間もなく、ぐいっと硬直している身体が引っ張られた。
その力のままに足が氷の上を撫でてどんどん前に進んでいく。

「う、わあ・・・」

おもわず感嘆の声をあげた。滑っているのだ、リンクを。
自分の力ではなく彼が引っ張ってくれているおかげだがなんと良いものだろう。
楽しい。 強ばっていた表情だがすぐにほぐれていった。 しまりない顔になる。

「・・・てかアンタ、スケート初めてなのにどうして滑れるんや」

同じ初心者同士なのにこうも差があるものだろうか。
生まれながら持ちえたものなのか、彼は何事もいつも簡単にそつなくこなす。 苦労してやっと出来るようになる自身とは大違いだ。 そんな彼が羨ましくもあり、妬ましくもある。

「才能の違いじゃねーの?」
「・・・ムカつく奴やな」
「・・・・・・手放すぞ」

そう脅されて慌てて"ごめん、ごめん"と謝った。 そうしなければ本当に放されていただろう。
彼はまだ不服そうな顔をしていたが、へらっと笑いかけるとため息を吐いて再び自身の手を引いて滑り出した。


***


それからというものの、暇さえあればスケートリンクへ行き、見事にのめりこんでいった。
そのおかげか上達するのも早かった。もともと運動神経は良い自身だ、コツさえ掴めば出来ないものはない。
そのうちにただ自分勝手に滑っているだけでは満足できなくなり、フィギュアスケートの教室に通い始めた。 それには何故か棗も一緒で。 物事に大して関心を示すことのない彼が自身と同じようにそこまで打ち込んでいたなんて驚きだ。 その相乗効果もあって、ますますスケートが楽しくなっていった。

「・・・あ、」

それはいつの日かと同じようにテレビのチャンネルを回していると、たまたまフィギュアスケートの番組が映った。 きっけかは全て此処から。 少しは自分もこの画面なのかで綺麗に魅せる人たちに近づけただろうか。
テレビから視線を外し、部屋に飾ってあるトロフィーをみる。 ほんの小さな大会だったが初めて優勝して、周りにも認めてもらえたという証。 むちゃくちゃ嬉しくて鼻が真っ赤になるまで号泣した。
いつか自分も、この画面の中のキラキラした人達のようになりたい。 人をひき付けられる演技をしたい。
以前に自身が心を奪われたのと同じようなものを、誰かに与えたいのだ。 そのために今出来ることといえば、ただただ練習すること。 そう思うとじっとしていられなくなり、テレビの電源を切ると靴を持って家を飛び出た。

いつか輝けるその日を夢みて、今日も氷上をかける。



 

「なつみかんがフィギュアスケート選手の話」とのリクでしたがただスケートしてるだけですよね^^;
そして全体的に意味不明分で申し訳ないですOrz

リクエスト有難う御座いました!