ジュネスの戯れ

あまりにも退屈過ぎて欠伸が出てきたのを手の甲で口を覆って隠した。
授業中ほど暇でつまらないものはないと思う。 真面目に教師の話を聞くなんてありえないし、ましてや忙しなく手を動かしノートを取るなんてめんどくさい事もってのほかだ。 普通の人間ならそうしなければテストで支障がでるのかもしれないが、自身は特に問題ない。 直前に教科書でも流し読めばそれで十分どうにかなる。
――――だから、自身の隣の奴みたいに睡魔に耐えてまで必死に授業を受けている神経が理解できない。

「・・・・ひでえ顔」
「・・・・・・なっ、うっさいわ」

かくんかくんと四方に頭が揺れ、今にも目蓋が閉じそうになっていた彼女だが、此方の声を聞くと一間置いて顔が向けられた。 どうやら意識が覚醒したようだが、目の淵をゴシゴシと擦り、やはりまだ眠たそうなのが伺える。

「眠いなら寝れば良いだろ」
「そしたら授業分からなくなるんやって、」

何処かの誰かさんと違ってウチは馬鹿ですから。
じとりとした眼で恨めしそうに此方を見た。 何処かの誰かさんとはもしかしなくても隣の俺のことだろうな。
馬鹿とは元々の脳の造りが違うのだからどうしようもあるまい。
べつに自ら望んで欲しくもなかったが、生まれもってしまったものなのだから。

「まあ馬鹿は馬鹿なりに頑張るしかないよな」
「・・・・・ソーデスネ」

何か言うだけ無駄だだと思ったのか。それとも、もはや反論する気にもならないのか。
自身の発言を受け流すようにそう言って大袈裟にため息を吐くと、黒板に目を向けシャーペンを走らせだした。


***


「・・・なあ、棗」
「ん?」

すっかり睡魔を過ぎ去ったようで、黙々と必死にノートをとっていた彼女がふいに此方を向いた。
じいっと大きい真丸な瞳が顔を覗き込むように見上げてくる。

「髪いじられて、気が散るんやけどっ」

授業中なので小さく声を荒げて訴えてきた。迷惑、と鋭く睨まれる。
そう言われたように、相変わらず暇で仕方がなかった自身は目についた彼女の髪に手を伸ばして暇つぶしにしていたのだ。 ふにふにと動く柔らかな髪を指先でいじるのはおもしろい。 それに手触りも良いし。

「気にするな」
「無理やって!」

強く声をあげたことによってガタガタと机が揺れ、教科書を読み進めていた教師が何事かと怪訝そうに此方を見た。 苦笑いをみせて、"何でもない"となんとか場をやりすごす彼女。 必死だったその様子が滑稽で、"阿呆"と声にはださず口の形だけで罵倒すると、それを読み取った彼女の眉間がひくりと細かく震えたのが分かった。

「誰のせいやと思って・・・・」
「馬鹿な自分のせいだろ」
「アンタなあ・・・っ」

いいかげんに・・・とまた声が荒げられそうな彼女の口を咄嗟に自身の手で覆った。 くぐもった声が指と指の隙間から漏れる。 彼女の学習のしなさには、呆れを通り越して笑わざるをえない。 幾つになっても思考と行動が直結している単純馬鹿というか、なんというか。 だがその様子がまた気に障ったようで、顔が強張った。

「・・・・・ウチ、アンタの隣の席いやや」
「そりゃあご愁傷様で」

俺はお前が隣で良かったけどな。
頬杖をついて鼻で笑いながらそう言うと、彼女はなんとも難しそうな表情を浮かべていた。



 

「授業中でもイチャイチャしてるなつみかん」・・・・これどの辺がイチャイチャ?^^
まあ傍から見たらそう見えるかな!見えるよね!見れば良いよ!←

リクエスト有難う御座いました!